かさこじぞう Kasakojizou
Bamboo Hats for Jizo
The Grateful Statues

ISBN4-591-03711-8 C8739 P1000E

Translation by Naoya Arakawa (arakawa@itl.atr.co.jp)
page 2

むかし、 むかし、 ある ところ に、 やね を ふく かや 一ぽん も ない じいさま
と ばあさま が いました。
あした は 正(しょう)月(がつ) だ と いう のに こめ を かう かね も ありま
せん。
ぺったん ぺったん
きんじょ で は もう もちつき が
はじまりました。

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むかし、 むかし、 ある ところ に、 やね を ふく かや 一ぽん も ない じいさま
と ばあさま が いました。
Long ago in some place, there was an old man and woman who didn't have
even a straw to thatch their roof.

あした は 正(しょう)月(がつ) だ と いう のに こめ を かう かね も ありま
せん。
Even though the next day was New Year's day, they didn't even have money
to buy rice.

ぺったん ぺったん きんじょ で は もう もちつき が はじまりました。
Pettang, pettang (sound), in the neighborhood, rice pounding had already begun.

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page 4

「もちつき の 音(おと) は いつ きいて も
いい もの じゃ。」
「ほん に のう。 うち で も なんぞ 正月 さま の
ようい を しましょう よ。」
「よしよし、 そん なら まち まで たきぎ を
うり に いって くる。」
じいさま が たきぎ を せおって
そと へ でました。

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「もちつき の 音(おと) は いつ きいて も いい もの じゃ。」
"It's always good to hear rice pounding sound."

「ほん に のう。
"Indeed,

うち で も なんぞ 正月 さま の ようい を しましょう よ。」
we should make some preparation for the New Year."

「よしよし、 そん なら まち まで たきぎ を うり に いって くる。」
"All right, then, I'm going to town to sell firewood."

じいさま が たきぎ を せおって そと へ でました。
The old man went out carrying firewood on his back.

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page 7

空(そら) は くもって いま にも
ゆき が ふり そう です。
「じいさま、 き を つけて な。」
「だいじょうぶ、 いい もの を どっさり
かって くる から のう。」
じいさま は 手(て) を ふって でかけて いきました。

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空(そら) は くもって いま にも ゆき が ふり そう です。
The sky is cloudy and it is likely to snow at any moment.

「じいさま、 き を つけて な。」
"Grandpa, take care."

「だいじょうぶ、 いい もの を どっさり かって くる から のう。」
"All right, I'll be back having bought plenty of good things."

じいさま は 手(て) を ふって でかけて いきました。
The old man left waving his hand.

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page 8

まち は たいへんな
にぎわい です。
「たきぎ は いらん か のう。
たきぎ は いらん か のう。」

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まち は たいへんな にぎわい です。
Town was in quite a bustle.

「たきぎ は いらん か のう。
たきぎ は いらん か のう。」
"Wanna buy firewood?
Wanna buy firewood?"

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page 9

じいさま が こえ を かけて も
だれ ひとり あいて に して
くれません。

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じいさま が こえ を かけて も だれ ひとり あいて に して くれません。
Even though the old man called out, nobody cared about him.

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page 10

「ばあさま、 がっかり する だろう なあ......」
じいさま は ふり はじめた ゆき の なか を とぼとぼ と かえって いきました。
すると 大(おお)きな 木(き) の 下(した) に、 かさうり の じいさま が し
ょんぼり すわって いました。

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「ばあさま、 がっかり する だろう なあ......」
"Grandma will be dissapointed..."

じいさま は ふり はじめた ゆき の なか を とぼとぼ と かえって いきました。
The old man started trudging back in the snow which had begun to fall.

すると 大(おお)きな 木(き) の 下(した) に、 かさうり の じいさま が し
ょんぼり すわって いました。
Then, he found an old sedge hat vender sitting sadly under a big tree.

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page 11

「たきぎうり の じいさま よ。
なんぼ か うれた か ね。」
「いいや うれねえ。」
「おら も おんなじ だ。」
かさうり の じいさま が ためいき を つきました。

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「たきぎうり の じいさま よ。
"Old firewood vender there,

なんぼ か うれた か ね。」
could you sell any?"

「いいや うれねえ。」
"Nope, couldn't."

「おら も おんなじ だ。」
"Same here."

かさうり の じいさま が ためいき を つきました。
The old sedge hat vender sighed.

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page 13

「どうせ うれない もの どうし。
おら の たきぎ と おまえ さん の
かさ を とりかえない か。」
「そう だ な。 それ も よかろう。」
ふたり の じいさま は たきぎ と かさ を とりかえました。

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「どうせ うれない もの どうし。
"We're fellows who can't sell any way.

おら の たきぎ と おまえ さん の かさ を とりかえない か。」
Would you exchange my firewood and your hats?"

「そう だ な。 それ も よかろう。」
"Well now. That'd be fine."

ふたり の じいさま は たきぎ と かさ を とりかえました。
The two old men exchanged their firewood and hats.

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page 14

「やれやれ、 すっかり おそく なって しまった。」
じいさま は、 かさ を せおって おおいそぎ で あるき だしました。
ゆき は どんどこ どんどこ ふって きて、 山(やま) も のはら も まっ白(しろ
) です。
「おお、 さむい、 さむい。」
いい ながら ふと まえ を みる と、 みちばた に おじぞうさま が 七(なな)つ
なかよく ならんで たって いました。

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「やれやれ、 すっかり おそく なって しまった。」
"Good grief, it became quite late."

じいさま は、 かさ を せおって おおいそぎ で あるき だしました。
The old man started walking in a rush putting the hats on his back.

ゆき は どんどこ どんどこ ふって きて、
It snowed thick and fast,

山(やま) も のはら も まっ白(しろ) です。
and the mountains and fields were all white.

「おお、 さむい、 さむい。」
"Oh it's cold, it's cold."

いい ながら ふと まえ を みる と、
said he, and looked ahead,

みちばた に おじぞうさま が 七(なな)つ なかよく ならんで たって いました。
finding seven Ojizou-sama (statues) standing together on the roadside.

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おじぞうさま=じぞうぼさつ= Ksitigarbha Bodhisattva
ks(h)iti = earth; garbha = womb (supposedly an Indian "earth-mother" deity,
originally)

page 16

じいさま は おもわず たちどまって 手 を あわせました。 「なに は なくて も
どうぞ たっしゃ で くらせます ように。」
おいのり を して ひょいと かお を あげたら、 おじぞうさま の あたま に も ゆ
き が いっぱい。 「おや まあ、 これじゃ さむかろう に。」

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じいさま は おもわず たちどまって 手 を あわせました。
Without thinking the old man stopped and joined his hands.

「なに は なくて も どうぞ たっしゃ で くらせます ように。」
"Even without having things, I wish that we can live on healthily."

おいのり を して ひょいと かお を あげたら、
Having prayed, he looked up and found

おじぞうさま の あたま に も ゆき が いっぱい。
much snow on the heads of the Ojizou-sama.

「おや まあ、 これじゃ さむかろう に。」
"Oh my, this would be freezing."

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page 18

じいさま は おじぞうさま の あたま の ゆき を はらい のけ、 かさ を ひとつ
ひとつ かぶせて あげました。 ところが かさ は 六(む)つ しか ありません。
「はて、 こまった ぞ。」

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じいさま は おじぞうさま の あたま の ゆき を はらい のけ、
The old man whisked off the snow on the Ojizou-sama's heads,

かさ を ひとつ ひとつ かぶせて あげました。
and put hats on them one by one.

ところが かさ は 六(む)つ しか ありません。
However, there were only six hats.

「はて、 こまった ぞ。」
"Well now, I'm in trouble."

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page 19

しばらく かんがえて いた じいさま は、
じぶん の ほほかむり を とって さいご の じぞうさま に かぶせて あげました。

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しばらく かんがえて いた じいさま は、
After pondering a while, the old man

じぶん の ほほかむり を とって さいご の じぞうさま に かぶせて あげました。
put off his towel (tenugui) wrapping his cheeks and put it on the last
Ojizou-sama.

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ほほかむり

page 21

かさ と ほほかむり を かぶせて
もらった おじぞうさま たち は とっても
あったか そう。 なんだか じいさま まで
あったかく なった ような き が しました。 「これで もう だいじょうぶ。」
じいさま は なんど も ふりかえり ながら
かえって いきました。

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かさ と ほほかむり を かぶせて もらった おじぞうさま たち は とっても あった
か そう。
The Ojizou-sama who got the hats and towel looked very warm.

なんだか じいさま まで あったかく なった ような き が しました。
Somehow even the old man felt that he got warm.

「これで もう だいじょうぶ。」
"Having done this, they'll be fine."

じいさま は なんど も ふりかえり ながら かえって いきました。
The old man hit the road while he looked back many times.

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page 22

「ばあさま、 いま もどった ぞ。」
「あれあれ、 じいさま、 さむかった ろう に。 なんぞ
いい もの が ありました か。」
「それが のう。 まるで うれなくて。 しかた が
ない から かさ と とりかえ、 みんな
おじぞうさま に かぶせて あげた。」
じいさま は きょう の こと を
ばあさま に はなして あげました。
「それ は いい こと を なされた。
さあ、 はやく いえ に
はいりませ。」

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「ばあさま、 いま もどった ぞ。」
"Grandma, I'm home now."

「あれあれ、 じいさま、 さむかった ろう に。
"Well well, Grandpa, you must've been cold.

なんぞ いい もの が ありました か。」
Did you find anything good?"

「それが のう。
"As a matter of fact,

まるで うれなくて。
I couldn't sell at all.

しかた が ない から かさ と とりかえ、
As there was no other way, I exchanged it with hats

みんな おじぞうさま に かぶせて あげた。」
and I put them all on Ojizou-sama."

じいさま は きょう の こと を ばあさま に はなして あげました。
The old man told the old woman what had happened in the day.

「それ は いい こと を なされた。
"Well, you did a good thing.

さあ、 はやく いえ に はいりませ。」
Come on in home now."

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page 25

じいさま は いろり の ふち に
すわる と、 ほっ と した ように いいました。 「いま ごろ は おじぞうさま も
ぬくう
おもうて ござる よ。」
「ほんに のう。 きっと よろこんで いなさる だ。
なあに おじぞうさま の こと を おもい ながら とし を こしましょう。」
ふたり は つけもの で あわがゆ を すすり、 はやばや と やすみました。

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じいさま は いろり の ふち に すわる と、
The old man sat by the hearthside and

ほっ と した ように いいました。
said with relief.

「いま ごろ は おじぞうさま も ぬくう おもうて ござる よ。」
"Now, Ojizou-sama should be feeling warm."

「ほんに のう。
"Indeed.

きっと よろこんで いなさる だ。
For sure they must be pleased.

なあに おじぞうさま の こと を おもい ながら とし を こしましょう。」
Why (heck), let's see the old year out thinking of the Ojizou-sama."

ふたり は つけもの で あわがゆ を すすり、 はやばや と やすみました。
The two slurped millet gruel and went to bed early.

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#ぬくい (dialect) =あたたかい
#ぬくうおもうて (dialect) =ぬくくおもって=あたたかいとおもって
#ござる (archaic) =いる

page 26

ところが その よふけ、 おもて の ほう で なにやら おもい もの を はこぶ かけ
ごえ が きこえて きました。
よいさ よいさ
よいさ よいさ
「はて いま じぶん なん の さわぎ じゃろ。」

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ところが その よふけ、
However, late in the night,

おもて の ほう で なにやら おもい もの を はこぶ かけごえ が きこえて きました。
there were shouts for carrying some heavy things outside.

よいさ よいさ
よいさ よいさ
Yoisa! Yoisa!
Yoisa! Yoisa! (shouts)

「はて いま じぶん なん の さわぎ じゃろ。」
"Well, what kind of clamor at this time (of the night)?"

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page 29

じいさま は おきて いって
おもて の と を あけました。
すると どうで しょう。 そこ に は
おじぞうさま の はこんで きた
こめだわら や さかな が
いくつ も おいて ありました。

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じいさま は おきて いって おもて の と を あけました。
The old man rose and went to open the front door.

すると どうで しょう。
Then what was there?

そこ に は おじぞうさま の はこんで きた こめだわら や さかな が いくつ も
おいて ありました。
There were a number of rice bales and fish having been brought by Ojizou-sama.

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page 31

「おじぞうさま、 ありがとう ございました。」
ふたり は はつひので の なか に かえって いく おじぞうさま に むかって そっ
と 手 を あわせました。

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「おじぞうさま、 ありがとう ございました。」
"Ojizou-sama, thank you very much."

ふたり は はつひので の なか に かえって いく おじぞうさま に むかって そっ
と 手 を あわせました。
The couple quietly joined their hands for Ojizou-sama going back in the
the first sunlight (sunrise) of the new year.

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