つるのおんがえし Tsurunoongaeshi
Crane's Repaying Kindness
The Fairy Crane

ISBN4-591-03706-1 C8739 P1000E

Translation by Tom Ray and Yoshie Nagao (yoshie@hip.atr.co.jp) page 2

むかし、 山(やま) の なか で すみ を やいて いる、 まずしい
わかもの が いました。
ちらちら ゆき の ふる、 さむい 冬(ふゆ) の 日(ひ) の こと です。
わかもの は、 ながい あいだ ためた お金(かね) で、
ふとん を かい に まち へ でかけて いきました。

--

むかし、 山(やま) の なか で すみ を やいて いる、
まずしい わかもの が いました。
Long ago, there was a poor young man who was burning charcoal in the mountain.

ちらちら ゆき の ふる、 さむい 冬(ふゆ) の 日(ひ) の こと です。
It happened on a cold winter day when a light snow was falling.

わかもの は、 ながい あいだ ためた お金(かね) で、
ふとん を かい に まち へ でかけて いきました。
The young man went out to town to buy a futon with the money
that he had been saving for a long time.

--

すみ、炭 = charcoal
やく、焼く = burn, roast, bake
まずしい、貧しい = poor
ちらちら = flutter, flicker
ゆき、雪 = snow
あいだ = an interval
ためる、ためます、ためて、貯める = save

page 5

はずんだ こころ で 山 を
おりて いく と、 かたわら の しげみ の
なか で、 ごそごそ 音(おと) が しました。
「はて、 きつね でも いる の かな?」
そっと ようす を うかがう と、 白(しろ)い
大(おお)きな はね が みえました。
「つる だ。 つる が わな に かかって いる。
まて、 まて。 いま たすけて やる ぞ。」
わかもの は かわいそう に おもって、 あし に
かかった わな を はすそう と しました。

--

はずんだ こころ で 山 を おりて いく と、
He went down the mountain with a bouncing heart and,

かたわら の しげみ の なか で、 ごそごそ 音(おと) が しました。
from within a bush at his side, there was a rustling sound.

「はて、 きつね でも いる の かな?」
"I wonder, if there is a fox or something?"

そっと ようす を うかがう と、
Quietly he looked into the situation, and

白(しろ)い 大(おお)きな はね が みえました。
saw a big white wing.

「つる だ。 つる が わな に かかって いる。
"It's a crane. The crane is caught in a trap.

まて、 まて。
Wait, wait.

いま たすけて やる ぞ。」
Now I will rescue you."

わかもの は かわいそう に おもって、
The young man felt sorry for the crane,

あし に かかった わな を はすそう と しました。
He tried to take the trap off of the leg.

--

はずむ、はずみます、はずんで、弾む = bounce
おりる、おります、おりて、下りる = go down
かたわら、傍ら = the side
しげみ、茂み = thicket, bush
ごそごそ = rustling sound
きつね = fox
そっと = quietly, gently, lightly
ようす = a look, a manner, the situation
うかがう、うかがいます、うかがって、窺う = wait for, spy on, peep into, guess
はね = wing, feather
つる、鶴 = crane (bird)
わな、罠 = trap
かかる、かかります、かかって = caught
たすける、たすけます、たすけて、助ける = help, save, rescue
やる = do ~
はずす、はずします、はずして、外す = take off
~そう と する = to try to ~

page 6

そこ へ、 りょうし が あらわれました。
「なに を する。 おまえ は わし の えもの を
よこどり しよう と いう の か。」
りょうし は、 わかもの を にらみました。
「かわいそうだ から、 にがして やって くれ。 いや なら、
ここ に お金 が ある。 この つる を うって くれぬ か。」
わかもの は、 ふとん を かう お金 を りょうし に
わたしました。

--

そこ へ、 りょうし が あらわれました。
And then, a hunter appeared.

「なに を する。
"What are you doing.

おまえ は わし の えもの を よこどり しよう と いう の か。」
You dare to snatch my game?"

りょうし は、 わかもの を にらみました。
The hunter glared at the young man.

「かわいそうだ から、 にがして やって くれ。
"Because it is miserable, can you please set it free?

いや なら、 ここ に お金 が ある。
If not, I have money here.

この つる を うって くれぬ か。」
Wouldn't you sell the crane to me?"

わかもの は、 ふとん を かう お金 を りょうし に わたしました。
The young man handed the hunter the money for buying the futon.

--

りょうし、漁師 = hunter
あらわれる、あらわれます、あらわれて、現れる = appear
おまえ = you (not polite)
わし = me (not polite)
えもの、獲物 = game (animal), catch, prize
よこどり する、横取り する = snatch, steal
しよう と いう = to dare to
にらむ、にらみます、にらんで、睨む = glare (at), look (at)
にがす、にがします、にがして、逃がす = make someone escape
やる、やります、やって = only for emphasis, no meaning
くれ = like ください, but casual (not polite)
くれぬ = negative of くれ
わたす、わたします、わたして、渡す = hand (over), give

page 9

「さあ、 もう こんな ところ へ くる ん じゃ ない ぞ。」
わかもの は そう いって、 つる を 空(そら) へ にがして
やりました。
「くうーー」
つる は うれし そうに ひとこえ なく と、
わかもの の あたま の うえ を 大きく まわって、
空 へ きえて いきました。
つる を みおくる と、 もう まち へ いく ようじ は
ありません。 わかもの は きた みち を、 ゆっくり
山 へ もどって いきました。

--

「さあ、 もう こんな ところ へ くる ん じゃ ない ぞ。」
"So, don't come back again to this place."

わかもの は そう いって、 つる を 空(そら) へ にがして やりました。
The young man said that, and set the crane free into the sky.

「くうーー」
"Kuu... (sound of crane)."

つる は うれし そうに ひとこえ なく と、
The crane sang happily, and

わかもの の あたま の うえ を 大きく まわって、
and went around in big circles over the young man's head, and

空 へ きえて いきました。
dissapeared into the sky.

つる を みおくる と、 もう まち へ いく ようじ は ありません。
He sent off the crane, and he had no more business to go to the town.

わかもの は きた みち を、 ゆっくり 山 へ もどって いきました。
The young man slowly returned to the mountain, the way he had come.

--

にがす、にがします、にがして、逃がす = set free
やる、やります、やって = do ~
そうに = adverb ending
ひとこえ = a voice
なく、鳴く = sing
まわる、まわります、まわって、回る = turn, go around
きえる、きえます、きえて、消える = dissapear
みおくる、みおくります、みおくって、見送る = send off
ようじ、用事 = business
みち、道 = way, road
きた みち = the way he came (before)
ゆっくり = slowly

page 10

つぎ の 日 の あさ の こと です。
みた こと も ない ほど うつくしい
むすめ が、 やって きました。 そして、
「わたし を よめさん に して ください。」
と、 いう の です。
「とんでも ねえ。 わし は、 この とおり
びんぼうな すみやき じゃ。 よめさん を
もらって も、 くわせる こと も できない。」
わかもの は ことわりました が、 むすめ は、
「あなた の よめさん に して くれたら、
いくら まずしくて も かまいません。」
そういって、 わかもの と くらす
こと に なりました。

--

つぎ の 日 の あさ の こと です。
It happened the morning of the next day.

みた こと も ない ほど うつくしい むすめ が、 やって きました。
A beautiful girl who he had never seen before approached.

そして、 「わたし を よめさん に して ください。」
And then, "Please make me your bride",

と、 いう の です。
she said.

「とんでも ねえ。
"Of course not.

わし は、 この とおり びんぼうな すみやき じゃ。
As you can see I am a poor charcoal maker.

よめさん を もらって も、 くわせる こと も できない。」
If I have a bride, I can not even feed her."

わかもの は ことわりました が、 むすめ は、
The young man refused, but the girl said

「あなた の よめさん に して くれたら、
"If you will take me for your bride,

いくら まずしくて も かまいません。」
no matter how poor we are I don't mind,"

そういって、 わかもの と くらす こと に なりました。
she said like that, and came to live with the young man.

--

みた こと も ない = something you never saw before
とんでも ない = of course not, not at all, no trouble at all
ねえ = casual ない
この とおり、 この 通り = like this
すみやき、炭焼き = charcoal maker
もらう、もらいます、もらって、貰う = get, receive, have, be given
くわす、くわせます、くわして、食わす = feed, support
ことわる、ことわります、ことわって、断わる = decline
いくら、幾ら = no matter how, how much, how many
まずしい、貧しい = poor
かまう、かまいます、かまって、構う = mind, care about, be concerned about
そういって = said like that
くらす、くらします、くらして、暮らす = live

page 12

わかもの の くらし は、 すっかり かわりました。
あさ め を さますと、 いろり に は もう あたたかい
火(ひ) が もえて いました。 かお を あらって いる と、
「ごはん が できました よ。」
と、 きれいな よめさん が よびます。

--

わかもの の くらし は、 すっかり かわりました。
The young man's life completely changed.

あさ め を さますと、
When he woke up in the morning,

いろり に は もう あたたかい 火(ひ) が もえて いました。
there was already a warm fire burning in the fireplace.

かお を あらって いる と、
When washing his face,

「ごはん が できました よ。」
"Breakfast is ready,"

と、 きれいな よめさん が よびます。
his pretty wife called.

--

くらし、暮らし = life
すっかり = completely
め を さます = wake up
いろり、囲炉裏 = traditional Japanese fire place (in middle of room)
もえる、もえます、もえて、燃える = burn
あらう、あらいます、あらって、洗う = wash
よめ、嫁 = a bride, one's wife
よぶ、よびます、よんで、呼ぶ = call

page 13

よめさん は 山 の なか に ある、
おいしい たべもの を よく しって いて、
じょうずに つくります。 いえ の なか も きれいに
かたづいて、 しごと も どんどん はかどって いきます。
「わし の ところ へ よめ が くる なんて、 ゆめ みたいな はなし だ。」
わかもの は、 しあわせ そう でした。

--

よめさん は 山 の なか に ある、
おいしい たべもの を よく しって いて、
じょうずに つくります。
His wife knows very well the delicious food in the mountain,
and prepares it well.

いえ の なか も きれいに かたづいて、
She also keeps the inside of the house clean, and

しごと も どんどん はかどって いきます。
her work goes on and on.

「わし の ところ へ よめ が くる なんて、 ゆめ みたいな はなし だ。」
"The wife coming to my place is like a dream."

わかもの は、 しあわせ そう でした。
The young man seems to be happy.

--

かたづく、かたづきます、かたづいて、片付く = be put in order, be tidy
どんどん = fast, on and on
はかどる、はかどります、はかどって、捗る = progress, make a progress
なんて = emphasis

page 14

ある 日 の こと です。
「うら の こや を かたづけて いましたら、 ほこり を かぶった
はたおり が ありました。 わたし に はた を おらせて ください。
そのかわり、 はた を おって いる あいだ は、 けっして なか を
のそかないで ください。」
よめさん は そう いって、 こや へ はいる と、 と を しめました。

--

ある 日 の こと です。
It happened one day.

「うら の こや を かたづけて いましたら、
"While cleaning the hut behind the house,

ほこり を かぶった はたおり が ありました。
I found a dusty loom.

わたし に はた を おらせて ください。
May I please weave?

そのかわり、 はた を おって いる あいだ は、
However, while I am weaving,

けっして なか を のそかないで ください。」
please never look inside,"

よめさん は そう いって、 こや へ はいる と、 と を しめました。
his wife said, and entered the hut, and closed the door.

--

うら、裏 = back, reverse side
こや、小屋 = cottage, hut, cabin
ほこり = dust
かぶる、かぶります、かぶって、被る = put on, wear
はたおり、機織り = loom, weaving, a weaver
はた = loom, weave
おる、おります、おって、織る = weave
はた を おる = weave
そのかわり = instead
けっして = never ~, not ~ at all
のぞく、のぞきます、のぞいて、覗く = look into, peep in

page 15

ぎいっ ぱったん
ぎいっ ぱったん
よる も ひる も、 こや の なか から
ぬの を おる 音 が、 きこえて いました。

--

ぎいっ ぱったん
ぎいっ ぱったん
(gii pattan, gii pattan) weaving sound.

よる も ひる も、 こや の なか から ぬの を おる 音 が、
きこえて いました。
Night and day, he heard the sound of weaving from within the hut.

--

ぎいっ ぱったん = weaving sound
ぬの、布 = cloth

page 16

「おなか、 すかん の か。 すこし やすんで めし を くったら どう じゃ。」
わかもの は しんぱい を して、 そと から こえ を かけました。
けれども、 へんじ は ありません。
わかもの は、 ますます しんぱい に なりました。 なんど も
こや の と を あけよう と しました が、 じっと
がまん を して いました。
四(よっ)日(か)め に なって、 やっと こや の なか から
よめさん が でて きました。

--


「おなか、 すかん の か。
"Aren't you hungry?

すこし やすんで めし を くったら どう じゃ。」
Why don't you take a little rest and eat a meal?"

わかもの は しんぱい を して、
the young man worried, and

そと から こえ を かけました。
offered his wife from outside.

けれども、 へんじ は ありません。
But, there was no reply.

わかもの は、 ますます しんぱい に なりました。
The young man became more and more worried.

なんど も こや の と を あけよう と しました が、
じっと がまん を して いました。
He tried to open the door to the hut several times,
but he remained patient.

四(よっ)日(か)め に なって、
On the fourth day,

やっと こや の なか から よめさん が でて きました。
finally his wife came out from inside the hut.

--

くう、食う = eat (casual form)
そと = outside
かける、かけます、かけて = offer
へんじ、返事 = reply
ますます、益々 = more and more
なんど = several times
じっと = still, patiently
がまん、我慢 = patience, endurance
やっと = finally

page 19

よめさん は すっかり やせて、 ふらふら して いました。
やせおとろえて、 くび ばかり ながく かんじられました。
「こや の なか に、 おりあげた ぬの が あります。 それ を まち へ
うり に いって ください。 きっと たかい ね で かって くれます。」
「そんな こと は、 どう でも よい。 わし は おまえ の からだ が
しんぱい じゃ。」
わかもの が いう と、 よめさん は にっこり ほほえみました。
「わたし の こと は、 しんぱい なさらずに。 さあ、 はやく わたし の
いう こと を きいて ください。」

--


よめさん は すっかり やせて、 ふらふら して いました。
His wife was quite thin, and felt dizzy.

やせおとろえて、 くび ばかり ながく かんじられました。
He felt that she had become thin and weak, and that her neck was too long.

「こや の なか に、 おりあげた ぬの が あります。
"Inside the hut, there is cloth that I finished weaving.

それ を まち へ うり に いって ください。
Please go to town and sell it.

きっと たかい ね で かって くれます。」
Someone will buy it at a very high price."

「そんな こと は、 どう でも よい。
"That doesn't matter at all.

わし は おまえ の からだ が しんぱい じゃ。」
I am worried about your condition,"

わかもの が いう と、 よめさん は にっこり ほほえみました。
the young man said, and his wife smiled.

「わたし の こと は、 しんぱい なさらずに。
"Please don't worry about me.

さあ、 はやく わたし の いう こと を きいて ください。」
Now, hurry and please do what I said."

--

すっかり = all, quite, completely
ふらふら = feel dizzy
ばかり = about, always, only, just, almost
おとろえる、おとろえます、おとろえて、衰える = become weak, become worse
~ + あげた = to finish to do ~ (past form)
~ + あげる = to finish to do ~
きっと = sharply, sternly
かう、かいます、かって、買う = buy
くれる、くれます、くれて、呉れる = give, let ~ have, grant, present
どう でも よい = doesn't matter
おまえ = you
にっこり = smilingly
ほほえむ、ほほえみます、ほほえんで、微笑む = smile


page 20

わかもの は ぬの を もって、 まち へ でかけて いきました。
おみせ の しゅじん は、 その ぬの を みて、 びっくりしました。
「ほほう、 これは すばらしい。 いま まで みた こと も ない
ぬの じゃ。 八(はち)十(じゅう)りょう、 いや 百(ひゃく)りょう だしましょう。
こんど もって こられたら、 二(に)百りょう で かいあげましょう。」
め の まえ に、 百りょう の こばん を つまれて、 わかもの は
からだ が ふるえる ほど、 おどろいて いました。

--


わかもの は ぬの を もって、 まち へ でかけて いきました。
The young man went out to town, carrying the cloth.

おみせ の しゅじん は、 その ぬの を みて、 びっくりしました。
On seeing the cloth, the storekeeper was surprised.

「ほほう、 これは すばらしい。
"Great, this is wonderful.

いま まで みた こと も ない ぬの じゃ。
I have never seen such a cloth.

八(はち)十(じゅう)りょう、 いや 百(ひゃく)りょう だしましょう。
I will pay you 80 ryou, no, 100 ryou.

こんど もって こられたら、 二(に)百りょう で かいあげましょう。」
Next time if you bring more, I will buy it for 200 ryou.

め の まえ に、
In front of him,

百りょう の こばん を つまれて、
100 ryou of gold coins were piled up,

わかもの は からだ が ふるえる ほど、 おどろいて いました。
the young man was so surprised that his body shook.

--

おみせ、店 = shop
おみせ の しゅじん = storekeeper
ほほう = admiration
りょう、両 = more than 10,000 yen
だす、だします、だして、出す = pay
かいあげる、かいあげます、かいあげて、買い上げる = buy
つまれる、つまれます、つまれて、積まれる = be piled up
ふるえる、ふるえます、ふるえて、震える = tremble, shiver
ほど = about, some, or so, not as ~ as .., nothing is more ~ than .., such
おどろく、おどろきます、おどろいて、驚く = surprise

page 22

「わし に も、 いよいよ うん と いう もの が むいて きた ん だ。
いえ に かえったら、 すぐ また ぬの を おらせよう。」
せなか の つつみ に は、 ずっしり と おもい 百りょう の
お金 が あります。 いま まで みた こと も ない お金 です。
わかもの の こころ は すっかり かわって しまいました。
山 の なか の いえ へ もどる と、 わかもの は め を
かがやかせ ながら、 よめさん に はなし を しました。

--

「わし に も、 いよいよ うん と いう もの が むいて きた ん だ。
"Finally fortune has turned to me too!

いえ に かえったら、 すぐ また ぬの を おらせよう。」
When I return home, I will make her weave clothes again soon."

せなか の つつみ に は、
In the pack on his back,

ずっしり と おもい 百りょう の お金 が あります。
there was the very heavy 100 ryou's money.

いま まで みた こと も ない お金 です。
It is money which I have never seen before.

わかもの の こころ は すっかり かわって しまいました。
The young man's heart changed completely.

山 の なか の いえ へ もどる と、
When he returned to his home in the mountains,

わかもの は め を かがやかせ ながら、
The young man's eyes brightened while,

よめさん に はなし を しました。
he told the story to his wife.

--

いよいよ = at last
うん、運 = fortune, luck
むく、むきます、むいて、向く = turn (to), look (to)
と いう もの = emphasis
ぬの、布 = cloth
おる、織る = weave
ずっしり = very heavy
すっかり = completely, totally
かわる、かわります、かわって、変わる = change
かがやく、かがやきます、かがやいて、輝く = brighten
ながら = while, as

page 24

「もう いちど だけ じゃ。 そしたら ふたり で まち へ でて、
大きな やしき を たてて、 いつまでも おもしろ おかしく
くらす の じゃ。」
「わたし は、 あなた と ふたり で、 ずっと この まま の くらし が
したい の です。 まち へ など いきたく は ありません。」
よめさん は しずかに いいました。
けれども わかもの は ききません。

--


「もう いちど だけ じゃ。
"Just once more.

そしたら ふたり で まち へ でて、
Then let's go to town together, and

大きな やしき を たてて、
build a big mansion, and

いつまでも おもしろ おかしく くらす の じゃ。」
live a funny and interesting life forever."

「わたし は、 あなた と ふたり で、
ずっと この まま の くらし が したい の です。
"I want to keep our life as it is from now on, together with you.

まち へ など いきたく は ありません。」
I never want to go to town and so forth"

よめさん は しずかに いいました。
the wife quietly said.

けれども わかもの は ききません。
But the young man did not understand her.

--

そしたら = then
たてる、たてます、たてて、建てる = construct, build
おかしい = funny, joyful
おもしろ おかしく = funny, interesting
くらす、くらします、くらして、暮らす = live
この まま = as it is, as they are
など = and so on, and so forth

page 25

「それほど あなた が いう の でしたら、
あと いちど だけ おりましょう。 こんど も
ぬの が おりあがる まで、 けっして のぞかないで ください。」
よめさん は そう いって、 また こや へ はいって いきました。

--


「それほど あなた が いう の でしたら、
"You said like that, so

あと いちど だけ おりましょう。
I will weave only one more time again.

こんど も ぬの が おりあがる まで、
Also next time until I weave the cloth,

けっして のぞかないで ください。」
please never look in."

よめさん は そう いって、 また こや へ はいって いきました。
The wife said like that, and again entered into the hut.

--

それほど = like that
けっして、決して = never ~, not ~ at all

page 26

ぎーい ぱったん
ぎぎーい ぱったん
こや の なか から、 はた を おる 音 が きこえて きます。 まえ より
よわよわしい 音 でした が、 わかもの に は わかりません。
わかもの は いろり の まえ に ねころんで、 おさけ を
のみ ながら まって います。

--

ぎーい ぱったん
Giii pattan

ぎぎーい ぱったん
gigiii pattan (sound of weaving)

こや の なか から、
From inside the hut,

はた を おる 音 が きこえて きます。
he could hear the sound of the loom weaving.

まえ より よわよわしい 音 でした が、 わかもの に は わかりません。
The young man didn't realize that the sound was weaker than before.

わかもの は いろり の まえ に ねころんで、
The young man lay down in front of the fireplace, and

おさけ を のみ ながら まって います。
drank sake while waiting.

--

よわよわしい、弱々しい = weakly, delicate
ねころぶ、ねころびます、ねころんで、寝転ぶ = lie down

page 27

ぎーい ぱったん
ぎぎーい ぱったん
ところが、 こんど は 四日め の ゆうがた に
なって も、 まだ はた の 音 が して いました。
「なに を ぐずぐず して いる ん だろう。」
わかもの は たちあがる と、 こっそり こや の と を
あけて、 なか を のぞきこみました。

--

ぎーい ぱったん
Giii pattan

ぎぎーい ぱったん
gigiii pattan (weaving sound)

ところが、 こんど は 四日め の ゆうがた に なって も、
Then, even though it came to be the evening of the fourth day,

まだ はた の 音 が して いました。
the loom was still sounding.

「なに を ぐずぐず して いる ん だろう。」
"I wonder why she is so slow."

わかもの は たちあがる と、
The young man stood up, and

こっそり こや の と を あけて、
secretly opened the door of the hut, and

なか を のぞきこみました。
looked inside.

--

ゆうがた、夕方 = evening
ぐずぐず = slowly, lazily, hesitatingly
だろう = wonder
たちあがる、たちあがります、たちあがって、立ち上がる = stand up
こっそり = secretly

page 29

「ややっ。 これ は、 なんとーー」
わかもの は おどろいて、 たちすくみました。
なんと、 こや の なか で いっしん に はた を
おっている の は、 一わ の やせた つる でした。
つる は くちばし で 一ぽん 一ぽん からだ から
はね を ぬいて、 ぬの を おって いた の です。
「いま やっと、 おりあがりました。
けれども、 こんな すがた を みられて は、 もう ここ に
いられません。 わたし は、 あなた に たすけて いただいた
つる です。 さあ、 この ぬの を まち へ もって いって、
しあわせ に くらして ください。 さようなら。」

--


「ややっ。 これ は、 なんとーー」
"Wow! What is this?"

わかもの は おどろいて、 たちすくみました。
The young man was surprised and petrified.

なんと、
Amazingly,

こや の なか で いっしん に はた を おっている の は、
一わ の やせた つる でした。
inside the hut there was one slender crane weaving intently.

つる は くちばし で 一ぽん 一ぽん からだ から はね を ぬいて、
With its bill, the crane was pulling out feathers from its body one by one, and

ぬの を おって いた の です。
was weaving the cloth from them.

「いま やっと、 おりあがりました。
"Now at last, I finished weaving.

けれども、
But,

こんな すがた を みられて は、
because you see me in this appearance,

もう ここ に いられません。
I can not stay here anymore.

わたし は、 あなた に たすけて いただいた つる です。
I am the crane that received help from you.

さあ、 この ぬの を まち へ もって いって、
So, take this cloth to town, and

しあわせ に くらして ください。
please live happily.

さようなら。」
Goodbye."

--

おどろく、おどろきます、おどろいて、驚く = be surprised
たちすくむ、たちすくみます、たちすくんで = be petrified
なんと = amazingly, what!, how!
いっしん に、 一心に = intently, wholeheartedly
一わ、いちわ、一羽 = counting for crane, one crane
やせた、痩せた = slender, slim, skinny
くちばし = a bill, a beak
はね、羽 = feather
ぬく、ぬきます、ぬいて、抜く = pull out
やっと = finally, at last
すがた、姿 = a figure, appearance
いただく、いただきます、いただいて、頂く = get, receive, have
くらす、くらします、くらして、暮らす = live

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つる は そう いう と、 はね の ぬけた つばさ を
いたいたしそう に ひろげ、
「くるるーー」
ひと こえ ないて、 空 へ とびたって いきました。
「お金 など いらぬ。 わし が わるかった。
いま まで どおり、 ふたり で この 山 の
なか で くらそう。 だから、 だから、
もどって きて おくれーー」
わかもの は なきながら、
いつまでも 空 に むかって
さけび つづけて いました。

--


つる は そう いう と、
Saying that the crane,

はね の ぬけた つばさ を いたいたしそう に ひろげ、
painfully spread her plucked wings,

「くるるーー」
"Kururuuu"

ひと こえ ないて、 空 へ とびたって いきました。
she cried once and took off into the sky.

「お金 など いらぬ。
"I don't even need money.

わし が わるかった。
I was bad.

いま まで どおり、 ふたり で この 山 の なか で くらそう。
As until now, let's live together in the mountain.

だから、 だから、
So, therefore,

もどって きて おくれーー」
please come back."

わかもの は なきながら、
While weeping the young man,

いつまでも 空 に むかって さけび つづけて いました。
faced into the sky and kept shouting forever.

--

つばさ、翼 = wing
いたいたしそう、痛々しそう = painfully
ひろげる、ひろげます、ひろげて、広げる = spread, widen
とびたつ、とびたちます、とびたって、飛び立つ = take off
など = even
いらぬ = casual old style of いらない (don't need)
どおり、通り = as
だから = so, therefore
もどる、もどります、もどって、戻る = get back, come back
むかう、むかいます、むかって、向かう = face
さけぶ、さけびます、さけんで、叫ぶ = shout
つづける、つづけます、つづけて、続ける = continue, keep